2009年6月8日月曜日

EUって誰!??

最近、発表の準備でトロイカ交渉っていうのを扱っていて、僕の頭の中はもうトロイカでいっぱい。

トロイカ交渉っていうのは、コソヴォ地位問題に関する国連特使アハティサーリによる交渉が失敗した後、コソヴォがセルビアからの独立を宣言(2008年2月)する前までの、2007年8月から4ヶ月間にわたって行われた、米・露・EUそれぞれの代表からなるトロイカによるセルビア、コソヴォとの交渉のこと。

で、この交渉の特徴は、コソヴォ地位問題の交渉の中で初めて、EUがアクターとして表舞台に登場したことにあるそうな。その背景には、国連の監視下でのコソヴォ独立を柱としたアハティサーリ案については、EU加盟国間の中でも是非が分かれてEUとしての一体性を保てなかった。っていうのの反省から、次の交渉ではEUとして行動することにより、そもそもヨーロッパの問題であるコソボ地位問題にEU加盟国は一緒に取り組もう、という意図があったんだと思う。

ところで、今日ヨーロッパでは欧州議会選挙っていうのがあったのだけど、ちょっとTVでニュース見たところによると、独仏の投票率は40パーセントちょい、つまり非常に低いものだったそうで。
EUって、民主主義を共通の理念として掲げているんじゃなかったっけ?
上に書いたようなEUの関わっている国際問題のみ扱っていると、あたかもEUっていうのが誰もが日常に感じられるようなすごく大きな存在みたいに思えてくるけど、実際そうじゃないんだよね。

少なくても、EUっていうのは27の加盟国から構成されていて、その27カ国にはそれぞれ住んでいる人がいて、その人たちもEUの構成員うちのひとりひとりなのだけど、それでもそのEU議会の投票率は50パーセント足らず。
そうなると、国際関係でEU、EUって連呼しているけどEUってそもそも何?
コソヴォはヨーロッパの問題、とかっていうけど、ヨーロッパって何?誰それ?
っていう問題は国際関係をやってたら結構つきもの。

トロイカ交渉において、EU代表を務めていたのがいつかの投稿でも書いたとおり、
ドイツの外交官、ヴォルフガング・イッシンガーこと僕が発表を行うゼミの特別講師の方なのだけど、
ドイツの外交官が、ドイツ人としての利害を混入させずにヨーロッパの利害を求めて行動できるのか?
って考えると結構無理がある。だって彼はEU市民であるけど同時にドイツ国民でもあるんだもん。
一人の人間が、自分の中にあるアイデンティティを自由に完璧に使い分けるなんて無理でしょう。

つまり、ヨーロッパとかEUって聞いたら、それって中身は何?っていうのは気にしたほうがよくて、
トロイカ交渉の場合はEUのなかにドイツっていう要素はかなり強かったんじゃないか?
ちなみに、交渉途中でEU代表から提出された案は、ドイツ案って呼ばれてる。
さらにその内容は、地位問題をとりあえず棚上げにして経済・社会分野での協力関係を築く、
というもので、EU加盟国内で賛否が分かれるコソヴォの地位問題自体に踏み込んだものではなかった。

EUが加盟国の利害をまとめて、ひとつのアクターとして行動することの限界はこれからも超えられないと思う。
けれどもそれ自体悪いことでは決してなくて、加盟国の利害対立による限界の中でなんとかやっていく。
この姿勢は、互いの利害のみを追及し続けた結果交渉の失敗の原因となったセルビア・コソヴォ対立、米露対立よりもよっぽど評価できる。
EU内の利害対立の中で、どのように妥協案が生まれてそれがEUによる案として採用されるのか、その過程におけるうさんくささは拭いきれないけれど。

1 件のコメント:

shinshyu さんのコメント...

確かに日本から見るとEUは先進的だと感じるけれど、吉光の言う通り、ある程度の中途半端さを残さないと、EUの結束を保てないのだろうね。
預金保護に走った国々なんかを見ると、まだまだ各国バラバラの政策をとるインセンティブは高いみたいだし。

ところで、EU議会ってどれくらいの権限を持っているの? 何だか申し訳程度に設立された印象を受けるのだが・・・。