例えばベッポはこう言った。
「時に、ものすごく長い道のりが目の前にあることがある。本当に本当に長いんだ。すると、ダメだ、自分には歩ききれない。そんな風に思うことがあるだろう。」
ベッポは、しばらくの間黙って前を見つめていた。そして、続けて言った。
「すると、切羽詰ってくる。急がなきゃ、速く行かなきゃって。して前を見上げるたんびに、前に進めていない、って感じる。すると、ますます切羽詰って不安になってくる。終いには息が上がって、もう前には進めない。けれども道はまだまだ続いている・・・そんな風にしちゃいけないんだ。」
ベッポは、またしばらく考え込んで、こう続けた。
「そんな時は、長い道のりを一度に全部見通しちゃいけないんだ。わかるかい、モモ。次の一歩しか考えちゃいけない、次の一息、ほうき一掃き。いつでも目の前にある一歩しか考えちゃいけない。」
ベッポは、またちょっと黙って考えてから言った。
「そうすると、楽しくなって来るんだ。これが大切なんだ。自分のしなきゃいけないことが楽しく感じられる。本当はそんな風にしなくちゃいけない。」
今度はちょっと長い時間たったあと、続けて言った。
「最後になって、一歩一歩歩いていたのが、長い道のりを全部歩ききっていたことに気づく。どうやったのかはよくわからないし、息が切れているわけでもない。」
ベッポは頷いて、最後に言った。
「これが大切なんだ。」
(Michael Ende,”MOMO”,P38-39.より)